カメラのオールドレンズのクモリの1つ「バルサム切れ」修理

バルサム切れレンズレンズリペア基本情報

◎2022/08/21に「ヒートガンによる自動バルサム剝がし器の製作」を追加更新致しました。

カメラの交換レンズ(特にオールドレンズ)を集めていると、たまに内部のレンズが曇っている個体に出会う事がありますよね(汗)
これが世間で良く言われる「バルサム切れ」という症状です。
「バルサム切れ」の状態で撮影するとコントラストは落ち、逆光にも弱くなるので何とか修理したくなるものです。
因みに「バルサム切れ」とは貼り合わせレンズに使う接着剤が経年劣化で曇ったり、気泡が出る事で、修理は大掛かりなリスクを伴った作業が必要となります。

しかし実はここで「バルサム切れ」と決めつけるのは良くない時もあります。
何故なら「結露による曇り」、「グリスが気化した事による曇り」や「コーティングの曇り」、「薄カビ」も割とあるからです。
こればかりはレンズを分解し、その雲ったレンズを取り出して判断するしかありません。

それでは自分が今まで経験した事をもとに「バルサム切れ」の判断、剥離、接着までを解説していきたいと思います^^

 

①とりあえずレンズ本体を分解して「曇ったレンズ」を取り出します

バルサム切れレンズ

とりあえずこのレンズの場合は、後群ユニット絞り側2番目にある貼り合わせレンズが曇っていました。
分解方法はそれぞれのレンズで検索してみて下さい(汗)

とりあえず「レンズ用のクリーニングペーパー」で拭いて曇りが取れる様でしたら、結露、グリスの気化や薄カビが原因なので「バルサム切れ」ではありません。

そして今度は照明などの光をレンズ表面に反射させて艶が無かったら「レンズコーティング」が曇っていますので、「酸化セリウム」で様子を見ながら研磨するか、「プロに再コーティング」してもらった方が良いと思います。
研磨はやり過ぎると光軸が狂いますのでほどほどに(汗)
それにコーティングを研磨しても、時間が経つとまた曇ってくる確率が高いです。

コーティングをチェックしたら再び照明の光を当てて、いろんな角度から観察し、明らかにそれが内部でしたらそれは「バルサム切れ」という事になります。
(それでも稀にコーティングだった事もあったので良く観察して下さい: 汗)

Ayumu
Ayumu

バルサム切れと判断したら、とりあえずダメもとでドライヤーなどで熱を加えてみて下さい。

軽度なバルサム切れなら、バルサムの透明度が稀に復活する事があるからです。
でも注意点は欲張り過ぎると悪化する事ですね…(汗)
ほどほどに。

Ayumu
Ayumu

最近あった事例で、オールドレンズ「soligor 35mm f2.8」のピントの山が凄く曖昧な物に出会いました。

絞ってもあまり改善されず、どうしてなんだろう?と思って貼り合わせレンズを見るとバルサムが虹色に…

良く見るとバルサムが膨張していました。

ちょっと力を加えたら簡単に剥離したので、そのまま貼り合わせたら元のジャスピン性能に戻った事があります。

ピントの山が甘いオールドレンズはバルサムをチェックする必要があるかもしれません。

(2020年01月07日更新)

 

 

 

②バルサム切れの事例A

バルサム切れA取り出した「バルサム切れレンズ」の周囲がベタベタしている場合です。

これはレンズを手に取って「ずらしてあげるだけでレンズ接着面が剥離するパターン」で、今までの経験だと約4割が手で簡単にズルッと剥離しました(汗)
(ベタベタしていても剥離しない場合もあります)

Ayumu
Ayumu

バルサム切れレンズをシンナーやアセトン、エタノールに浸して分離する方法もあります。
欠点は時間が掛かる事と、自分はシンナーでやったら、ニコンのレンズはコーティングが痛んでしまいました。
確か70-210mmF4…

 

③ベタベタバルサムなら清掃も簡単な事が多いです

バルサム清掃バルサムがベタベタしている場合、その多くは「無水エタノール」を使って拭くだけで綺麗になる事が多いです。

そして「天然バルサム」か光学用接着剤 「アーデル オプトクレーブ」などで貼り合わせて完成です。
レジンでも劣化(黄変しない)しない「パジコ UV-LEDレジン 星の雫 ハード」などなら光の屈折率も高くて良いですが、長期に渡っての劣化は保証できませんので、できるなら「天然バルサム」で貼り合わせるのが良いと思います。
(貼り合わせの詳細は下記を参照して下さい)

 

 

④バルサム切れの事例B

バルサム切れタクマー次は取り出した「貼り合わせレンズ」の周囲がベタベタしていない場合です。
まずはお手軽「煮沸分離」にチャレンジしてみましょう。

⑤バルサム切れの煮沸分離

バルサム切れ煮沸分離そのままレンズを入れるとコトコト動いて不安になりますので、小さなビニルなどに入れて煮沸するといいです。
とりあえず30分ごとに剥離にチャレンジし、3時間やってもダメなら次に記載する最終手段⑪をやってみてください。
自分は煮沸分離で約3割の成功率でした。

 

⑥「バルサム切れレンズ」の剥離後は清掃

バルサム清掃おおよそ煮沸分離で成功した場合、古いバルサムを「無水エタノール」で取り除ける確率が高いです。
取り除けない場合はキッチンクリーナーで良くある「クリームクレンザー ジフ」を使うといいみたいです。
これはブログ友達である「想桜さん」のブログ「ファイティンガッツピストン号」に理由が書いてありますが、ジフの研磨成分のモース硬度がガラスより低く、貼り合わせの樹脂より高いので問題がないそうです。

 

⑦初めての貼り合わせは練習の為に「100均のレジン」を使ってしまいました…

ばるさむ代用のレジンこれはネット上で非難を浴びました(滝汗)
そして載せている写真はバルサムの代わりにレジンを使って貼り合わせたレンズの3年半後の画像になります。

100均のレジンは割と屈折率も高く(物によりますが)、使い勝手もいいのですが、何が問題なのかと言うと、それは経年劣化で「黄変」したり「白濁化」するからです。
(今は黄変しにくいVer.も発売されていました 2019/12/24更新)
でも久しぶりに取り出したこのレンズは全く「黄変」していませんでした。
おそらく日光にあまり当てていないからだと思うのですが、未だになんとか透明度を維持していました。

それでは話がちょっと逸れますが、ここでこのレンズを使ってフィギュアを撮影してみました(汗)

 

 

⑧レジン使用3年半後の写りです

レジン使用3年半後カメラはニコン1V1を使い、絞りはf2.8で撮影し、フードは付けていません(汗)
このレンズの最短撮影距離付近での絞り開放はそれほどシャープではないので参考にならないと思いますが、良く写っていると思います。
ノーマルのバルサムと比べようがありませんが、貼り合わせ3年半後でも保存状態が良ければ劣化はそれほど進行していない感じでした。

もしレジンを使うなら「黄変」しないものを選ぶのがいいですが、レンズを長く使うつもりならやっぱり奮発して天然の「カナダバルサム」を使うのがベストで安心です。

 

⑨バルサム切れの事例C

バルサム切れレンズ次は煮沸分離ができなかった場合の分離方法で、より高温の熱源を使う事になります。
しかし…
京セラのズームレンズって、バルサム切れの確率がとても高い気がします(汗)

 

⑩剥がれにくいパターンの「バルサム切れ模様」

バルサム切れレンズこうしたバルサム切れの模様でしたら、大方剥がすのが困難になると思った方がいいです(汗)
生易しい方法では埒が明きません。
「真空加熱器」があるといいらしいですが、そんな物は一般家庭にある訳も無く、「圧力なべ」ならひょっとして…(やってみたいですが: 笑)

 

⑪次なる手段は「オーブンで焼く」

バルサム切れオーブン焼レンズをアルミ箔で囲い、オーブンを200度20分にセットし、焼きあがるごとにレンズ分離を試みます。
おおよそこの方法で1~3回やって、レンズの分離に成功すると思います。

因みにバルサムは焦げますが、コーティングはかなりの高温に耐えられますので大丈夫です。
(自分は360℃以上かけましたが、大丈夫でした)

⑫分離に成功したバルサム切れレンズ

バルサム切れ分離成功この時にバルサム独自の匂いがすると思います。(マンダム)
もし匂いがしない時は合成樹脂の可能性が高いです。
そして分離面を「無水エタノール」で綺麗にしますが、おそらく剥がれにくいバルサムほど綺麗にするのは困難なので、⑥で紹介した「ジフ」を使って綺麗にしていきます。

 

⑬バルサムを使って貼り合わせます

バルサム貼り合わせ自分はフライパンの上にアルミホイルを敷き、埃が入らないように蓋をしながらIHクッキングヒーターの保温モードで加熱しました。
いらないスプーンでバルサムを温め、90℃くらいに昇温したらレンズ表面に垂らして貼り合わせます。
ちょっと多めに塗付し、空気を抜く感じで偏心回転させていきます。
この時にはみ出たバルサムは後から簡単に取れますので、とにかくしっかり空気を抜いて、バルサムが厚くならないように集中します。
そしてノギスなどでクロス方向に挟み、センターを出しておきます。
(もし鏡筒にレンズが入らない場合は、鏡筒をドライヤーで温めれば入ります)

カナダバルサムは長成商事さんで売っていますし、光学用接着剤 「アーデル オプトクレーブ」と言う方法もありますが、お勧めはカナダバルサムです^^;
(バルサムをキシレンで薄めたタイプは乾きにくいらしいです)

 

⑭最終兵器! ヒートガンによる自動バルサム剝がし器を製作しました!

自動バルサム剝がし器1これだけの部品をホームセンターで購入しましたが、「さら小ねじ」は特に必要ではなく、「ナット」と「ワッシャー」を追加した方が良いです。(汗)
掛かった金額は約¥580です。

☆組み立て完了
2自動バルサム剝がし器①この部分はスプリングも考えたのですが、ストロークが長過ぎるとバルサムが剥がれた時にレンズが割れたり飛び出す可能性があるので、ショートストロークになる「バネ座金」と「ワッシャー」を交互に組み合わせています。
もしスプリングを使用する時や不安な時は②の部分にストッパーナットを入れると良いと思います。

③この部分はアルミホイルを細く2カットし、この部分へ二重に巻いてレンズの保護と固定の役割をさせます。

 

⑮自動バルサム剝がし器を使ってみました

自動バルサム剝がし器テストレンズタムロン300mmf5.6のバルサム切れレンズを使って貼り合わせの分離をしてみます。

☆レンズは斜めにセットします
自動バルサム剝がし器レンズセット貼り合わせ面をずらす感じで、バルサム切れレンズを斜めにセットします。

☆レンズを挟む力は弱くてOK!
自動バルサム剝がし器 挟む力光学ガラスの角はとても簡単に欠けますので、レンズを挟む力加減はスプレー缶のノズルを押すくらいの力で十分です。
そんな感じでナットを軽く締め付けてレンズを固定します。

☆ヒートガンをマックスパワーで当てます!
自動バルサム剝がし器 ヒートガン必ずヒートガンを当てる前に、レンズが落ちても割れない様にアルミホイルをちょっとクシャクシャにして折り畳んだ物を敷いておきます。
あと作業する場所は台所のシンクが良いと思います。
そしてヒートガンのパワーをマックスにしてレンズに熱風を当てます。

☆おおよそ1500Wのヒートガンなら5分で剥離できます
自動バルサム剝がし器 剥離完了バルサムが剥がれると、バネの力でポロっと自動分離します。
初めてやった時はガッツポーズをするほど感動しました。
何しろヒートガンのスイッチを入れたらコーヒーを飲みながら待つだけなので…^^;

☆大きいレンズもやってみました
自動バルサム剝がし器 大きいレンズ剥がすにはとてもリスクの高い大きなレンズですが…

☆こちらも5分で剥がれました
自動バルサム剝がし器 大きなレンズ剥がし自動でリスクも少なく、短時間で剥がせるのは本当に助かります。

☆後はレンズを奇麗にして貼り合わせれば完成です
自動バルサム剝がし器 完成ヒートガンによる貼り合わせレンズの剥離はおススメです。
でも火傷にはくれぐれも注意して下さい!!!

 

⑯温度差分離は個人的にちょっとお勧めできません…

バルサム分離失敗これはその昔に「温度差方法でやった分離方法」なんですが、まさかの結果になりました…
やはり急激な温度変化には耐えられないみたいです。
小さなレンズならいいんでしょうけどね^^;
やるならヒートガンによる分離がリスクが少なく、お手軽なのでお勧めです。

 

◎おそらく2000年代になってからは「天然樹脂のバルサム」や「旧タイプの合成樹脂」に代わって、生産効率が高く、劣化しにくい新タイプの「紫外線硬化タイプの合成樹脂」になりましたので、こうした「バルサム切れ」問題も無くなっていくと思われます。
それでもこれからは2014年頃まで良く売れたデジカメレンズのカビジャンクが出てくるんでしょうね^^;
(デジカメをしまって、スマホで写す人が増えてますから…)

光学レンズの分解・修理は自分も失敗していますので、やる時は自己責任でお願い致します(汗)

以上、【カメラのオールドレンズのクモリの1つ「バルサム切れ」修理】でした!

コメント

  1. ハヤブサ より:

    ヨッシーハイムさん、はじめまして。
    ハヤブサと申します。
    私もオールドレンズ、クラカメ修理を趣味にしています。
    いつも記事を楽しく読ませてもらっています。
    今までバルサム切れレンズを何も考えず諦めてきましたが、急にバル切れ修理を試してみたくなりました。
    この度、New FD 50 1.4の中玉バルサム切れの個体を手に入れまして、まずは剥がし工程をやってみました。
    とにかくまずは剥がしたいという気持ちを抑えられず、グリルで直火焼きという暴挙に出ました。
    結果、剥がすことはできたのですが、レンズが黄変してしまいました。
    ジフを使って清掃しましたが、何やらレンズそのものが変質したようで、透明には戻りませんでした。
    次はヨッシーハイムさんおすすめのヒートガンでやってみようと心に決めたのですが、黄変の原因だけは知っておきたいと思い、ご連絡させて頂きました。
    もしご存知であればご教授願えませんでしょうか?
    よろしくお願いします。

    • ayumu3 より:

      ハヤブサさん初めまして。
      お返事が遅くなり申し訳ありません
      ご質問の件ですが、今までありとあらゆる方法で貼り合わせの分離を試みましたが、バルサムは焦げてもレンズが黄変した事は一度もなかったのでちょっと驚いています。
      おそらくそのグリルは場所によってはかなりの高温になっていたのかもしれませんので、もしまたグリルでやるのでしたらアルミホイルなどでレンズを巻いて保護されるといいと思います。
      ダメもとでUV照射をしてみるのも手だと思いますが、おそらく黄変は直らないと思います
      ヒートガンなら可視光線の熱や赤外線は無いので安全だと思いますが、バルサムが剥がれる以上の熱を加えない為にも今回使った自動で剥がれる装置を使った方が安全だと思います。

  2. ハヤブサ より:

    お忙しい中ご返信いただきありがとうございました。
    この機会にヒートガンを購入しようと思います。
    バルサム切れ修理ができればより多くのオールドレンズを救えると思うので、また挑戦してみます。

    • ayumu3 より:

      こちらこそお忙しいところ恐縮です。
      まだ回数をこなしていないので効果は実証できていませんが、ヒートガンによる分離は今までで一番良い結果になると思っています。
      くれぐれも火傷には注意して下さい!

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