「TAMRON ZOOM 95-205mm F6.3 (910P)」分解・清掃・作例

タムロン910P タムロン

◎今回は1961年に発売されたタムロン初のズームレンズ「TAMRON ZOOM 95-205mm F6.3 (model 910P)」を分解・清掃してみました。

1961年発売  当時の価格¥19.800  マウントは「Tマウント」
レンズ構成6群7枚  最短撮影距離2.0m フィルター径58mm

このレンズの分解・清掃は簡単なのですが、中玉を外す時に「焦点距離目盛」部のネジを外し、鏡筒をねじってしまうと「中の白いフリクションパーツとバネ」が飛び出してしまい、全分解しないと直せないと言うトラップがあるので注意が必要です。
今回のレンズは前のオーナーさんが分解を試みたらしく、買った時にはすでに中で白いパーツとバネが転がっていました(汗)
と言う事で、今回は全分解整備をやりました^^;

参考として「レンズの分解・清掃に必要な道具とコツ」、「バルサム切れ修理」、「レンズの黄変の修理」、「弱いレンズコーティング」などを記事にしていますのでそちらもご覧ください。

①それではタムロン910Pを分解・清掃していきます

910P前玉清掃A:①は無限遠調整のロックになっていますので緩めないでください。
吸盤オープナーを使って前群ユニットを反時計回りに回して外します。

B:①の押さえリングを外し、レンズ②④とスペーサー③の向きをマーキングしながら外して清掃します。
特にスペーサーは向きがありますので注意してください。
(向きが無いように見えてもレンズの形に歪んでいるからです)
レンズを清掃したら組み立てます。

C:ここは長い「カニ目レンチ」を持っている場合は外さなくてもOKです。
自分は全分解が必要だったので、無限遠の位置でマーキング②をし、①のネジ3本を緩めて外しました。

D:ここも長い「カニ目レンチ」を持っている場合は外さなくてもOKです。
ヘリコイドは外れる瞬間の位置がとても大事なので、ここは必ずマーキングしておきます。

②中玉(前・後)を外して清掃します

910P中玉清掃A:①の穴にカニ目レンチを入れ、反時計回りに回して中玉(前)を外します。

B:①の押さえリングを外し、レンズ②とスペーサー③の向きをマーキングしながら外して清掃します。
④のレンズは確か外れないので、枠に付いたままレンズを清掃します。
清掃したらマーキングに従って組み立てます。

C:中玉(後)を固定している「焦点距離目盛」部のネジ①を外すのですが、ここからある事をしないと全分解整備をしないといけなくなるので注意してください!!

D:①のネジを緩める前に②の部分が回らないようにガムテープなどで固定します。
そして①のネジ3本を外したら中玉(後)を慎重に外します。

 

③ガムテープをしないで鏡筒を回すとこの部品が飛び出します!

飛び出すパーツ

②のフリクションパーツ(直進ズームの摩擦を作る機構)が飛び出してしまうと、全分解しなければ組めない事が分かりました。
理由は「かなり奥に部品を入れる部分がある」のと、「白いパーツは経年劣化で変形」している為に、とても外から部品を組み込むのは困難です。
自分は諦めて全分解整備をしました^^;
この部品の正規の位置はここから60度回した位置になります。

もちろん先端の曲がった長いラジオペンチなどを使い、根性で組むのもアリかもしれません。
でもおそらく無理じゃないかと思います。

 

④中玉(後)と後玉を分解・清掃します

中玉後と後玉910PA:外した中玉(後)のレンズを抑えているリングを外し、中のレンズを外して向きをマーキングしたらレンズを清掃します。
レンズを清掃したら逆の手順で組み立てます。

B:後玉ユニットの切り欠きにカニ目レンチを入れ、反時計回りに回してユニットを外します。

C:外した後玉ユニットのレンズを抑えているリングを外し、中のレンズを外して向きをマーキングしたらレンズを清掃します。
レンズを清掃したら逆の手順で組み立てます。

D:後は組み立てて分解・清掃は完了になります^^
しかしながら③のトラブルや、絞りの故障があった場合は次の全分解整備をしなければなりません。
でも個人的にはここからは「緩まないイモネジ」との闘いになりますので、フリクションパーツ③を組まずに諦める選択もアリかと思うのです。

このレンズのイモネジはとにかく固くて緩まない物が多く、緩まない時は「ラスペネ(ネジ緩め剤)」を付けて一日置きましょう!
それでも緩まない時はヒートガンでガンガンに温めるしかありません(汗)
自分はそれで全部のイモネジを潰さずに緩める事に成功しました。
もしイモネジを潰したら、ドリルで貫通させてタップをかけるしかありません。

⑤ここからはフリクションパーツを組む為の全分解整備になります

分解整備910P

この作業は全てのレンズを取り外した状態で始めて下さい。
A:①のイモネジ3個を緩め、マウント部分のリングを少しずらします。
②の絞り指標の位置が分かる様にマーキングしたら、リングを⑤外しますが、この時にクリックボール(B参照①)が落ちてくるので注意して下さい!
(組む時はイモネジを外して覗きながら③の打痕にピッタリ合わせて組み込みます。)
⑥のプリセットリングは⑤でクリックボールが落ちなかった場合、引き続きボールに注意して引き抜きます。

B:プリセットリングは①の部分にクリックボールとスプリングが入っています。
組む時はグリスで脱落しない様にしてから組みます。
マウント側のリングは②がクリック溝、③が回り止めになります。

C:絞りリング①のイモネジ3個を緩め、絞りリングを前玉側へずらします。
組む時はイモネジを外し、穴から打痕の位置②を確認して組み立てます。
③はプリセットリングの広い溝に入れるストッパーになります。
④のネジ(⑥のBの①参照)を外しておきます。

D:絞りリング(中)を抑えているリングのイモネジ3個を緩めます。

 

⑥分解していきます

イモネジ難関910PA:①のイモネジ2個を外し、反時計回りに回して中間ジョイントを外します。

B:①のネジ穴は位置が決まっていますので、組む時は①のネジを締めてから、イモネジ2個を締め込みます。
③は絞り伝達ボルトで②の溝に入っています。
これを不意に外すと絞りがバラバラになるので注意して下さい。
②絞りリング(中)を取り外します。

C:この①のイモネジには「ネジ止め剤」が塗付してあり、このレンズ一番の難関となります。
とりあえずここでは外しませんが、先に「ネジ緩め剤」などを流し込んでおくと良いと思います。

D:このネジを取り外します。

 

⑦絞りに気を付けて…

絞りに注意A:「TAMRON ZOOM」と書いてあるカバーを①反時計回りに回して②前側にずらします。
③のイモネジは「ネジ止め剤」が塗ってありますし、劣化してセメントみたいになっています(汗)
ここは気長に「ネジ緩め剤」or「シンナー」などを流して1日待ち、緩めてみるを数回繰り返すしかありません。
それでダメなら「ヒートガン」でガンガンに温めるしか方法はありません(汗)
自分は最初の方法で1本だけ緩んだので、あとの2本はガンガンに温めて緩めましたよ^^;

B:①のイモネジは一カ所だけ位置決めの為の穴が掘られているので、鏡筒とこのリングの位置関係をマーキングしておきます。
②を外さなければなりませんが、これを外すと絞り羽根がバラバラになりますので、中の回転する部分をガムテープなどでしっかり固定してから外します。
③を外します。
④を外します。
⑤は絞りの調整イモネジになっていますので、絞りの開度を調整する以外は触る必要はないと思います。
(絞りを分解する時は緩めて絞り固定側を外す必要があります)

C:ようやくこれで「TAMRON ZOOM」と書いてあるカバー①を外す事ができます。
②も外しますが、組む時に忘れると面倒な事になるので注意して下さい。

D:自分は知らなかったので、Bの②のネジを外して絞りがバラバラになりました(汗)

 

⑧ここでようやくフリクションパーツを組む事ができます

フリクションパーツを組むA:写真はすでにネジとバネを外し、白いフリクションパーツを組んだ状態です。
「TAMRON ZOOM」と書いてあるカバーを外すとようやくフリクションパーツを押さえているネジが見えますので、3個のネジを外し(バネが入っているので注意して下さい)、今まで外れた全ての部品をかき集めてグリスアップ①します。
そして中の鏡筒を溝の中間にセットし、ここから中玉(後)を組むまで絶対に動かさない様にします。
白いフリクションパーツ②を各三ヶ所に入れます。

B:バネに注意しながらネジ3個をねじ込みます。
そしてここで中玉(後)を組んでしまえばもうフリクションパーツは外れる事はありません。
後は逆の手順で組み立てて完成です^^

C:絞りの組み立て方はこんな感じでやっています。
最後の一枚が大変ですが、頑張って下さい!

D:組み立てたら、両方の絞り羽根固定リングを押さえながら動作確認&埃をブロアします。
そして慎重に鏡筒へ組み込みますが、絞りを開放にしてスプーンなどを通し、固定側リングを引っ張りながら組み込むと楽かもしれません。
もしバラバラになったらやり直しですが(汗)

 

⑨910Pの分解図

910Pパーツパーツ自体は少ないのですが、やはりこの時代のイモネジは作業を阻みます(汗)
あとイモネジはあまり締めこまない方がいいと思います。
「緩んだらまた締めればいいな」的な感じで締めないと、イモネジの頭が割れたり、また緩まなくなってしまいますから^^;

お疲れ様でした。

 

⑩「TAMRON ZOOM 95-205mm F6.3 (model 910P)」の作例

監視カメラf8TマウントアダプターはニコンFマウント、カメラボディはフルサイズのD700を使用しています。
205mm  f8.0

 

⑪池の欄干

欄干・開放95mm 開放f6.3

 

⑫池の欄干B

205mm205mm 開放f6.3

 

⑬空き缶

空き缶150mm f6.3開放

 

⑭マンション群

マンション開放95mm f8.0 周辺はf11まで絞らないと甘く感じます。

 

⑮マンション群B

マンション群205mm205mm  f8.0

 

⑯スイセン

スイセン95mm f6.3開放

 

⑰住宅展示場

住宅展示場125mm  f8.0
タムロン初のズームレンズ「910P」は絞らないと周辺こそ甘いものの、中央は開放から良く写る感じでした。
1961年の初任給が14200円の時代でしたから、今だと20万円くらいですね(汗)
でも戦後16年でこの写りだから素晴らしいと思いました^^

 

◎レンズの分解・清掃はリスクが伴いますので、落ち着いて慎重に行って下さい。
あくまでこの分解・清掃は個人的な趣味の為、間違っている事も多いと思いますので、参考程度にして下さると嬉しいです。
あとレンズの分解・清掃は必ず自己責任でお願い致します(汗)
以上、【TAMRON ZOOM 95-205mm F6.3 (model 910P)分解・清掃・作例】でした!

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