◎今回は1995年~2010年にかけて発売されたタムロンの廉価版AFズームレンズ「TAMRON AF 28-80mm F/3.5-5.6 Aspherical」の「77D」、「177D」、「277D」を3本それぞれ違うマウントごとに分解・清掃してみました。
基本的にこの3本は設計が変わっていませんが、分解してみると77Dが調整用のスペーサーが入っていたり、グリスアップ箇所が多いなど、一番手間をかけて作っていたのが分かります。
今回は「177D」を分解の基本として、「277D」と「77D」はマウントの違いによる分解の注意点を載せています。
あと、絞り込む事によるピント移動の結果も載せてみました。
「77D」は1995年発売、1998年生産終了(海外のカタログには1994年より掲載)
対応マウントはニコン / キヤノン / コニカミノルタ / ペンタックス
当時の価格は\38,000(Canon用は\40,000) レンズ構成: 7群7枚 最小絞り: 22
絞り羽根枚数: 6枚 最短撮影距離: 0.7m(50mm時) 最大撮影倍率: 1:8
フィルター径: 58mm 純正フード: C2FH 重さ: 237g 外寸: 72×70.4mm
「177D」は1999年発売、2010年生産終了 重さ: 230g 純正フード: 1C2FH
当時の価格は税込¥39,900(Canon用は税込¥42,000)
スペックは「77D」と同じです。
「277D」は単純に「177D」のシルバーモデルと言う位置づけです。
2000年発売、2005年生産終了 スペックは「177D」と同じです。
「77D」、「177D」、「277D」ともに中国製造。
参考として「レンズの分解・清掃に必要な道具とコツ」、「バルサム切れ修理」、「レンズの黄変の修理」、「弱いレンズコーティング」などを記事にしていますのでそちらもご覧ください。
①「177D」(ミノルタAマウント)を分解の基本としていきます
A: まずフォーカスリングゴムを外しますが、このゴムは位置決めが無いので、予め無限の位置でマーキングしておくと良いです。
B: 巻いてあるテープを外しますが、ここは無限遠調整になっていますので、テープを剥がす前に位置マーキングを忘れないようにします。
そして前群ユニットを外します。
C: 残念な事に前群後ろのレンズはプラスチックを高周波溶着で溶かして固定してある為に外す事ができません。
カッターなどで削ってレンズを取り出して清掃するのもいいですが、この前群ユニットは77D、177D、277D全て共通部品なので、安いジャンクとニコイチするのがいいかもしれません。
何故ならこのレンズは下手をすると¥110で売っている事があるからです^^;
D: 前群2枚の大きなレンズも残念な事にプラスチックを高周波溶着で溶かして固定してある為に外す事ができません。
しかもここはカッターで削るとみっともない感じになるので、上記のニコイチ作戦がおススメです。
特にAマウントは格安でゴロゴロしていますので…
②中玉表面の清掃と鏡筒の分離
A: とりあえずここで中玉表面の清掃をしておきます。
このレンズはこの玉が曇る事が多く、この玉だけ分解して表裏を掃除できます。
B: マウント部分の化粧カバーは外す必要はありませんでした。
C: ズームリングゴムを取り外します。
D: ここのネジ3個とコロ3個を取り外しますが、コロがちょっと外しにくく、また紛失し易いので気をつけてください。
③鏡筒の分離と各機械的接続部分
A: ネジとコロを外したら慎重に鏡筒を15mmほど分離します。
電子接点がありますので、変形させないように気をつけてください。
B: ここで各機械的な接続を確認しておきます。
黄丸はネジ&コロ固定部分とフォーカスユニットに繋がっています。
赤丸は絞り連動ピンと繋がっています。
青丸はAF駆動シャフトが入ります。
ミノルタAマウントの場合は後群ユニットは鏡筒側に残した方が作業がやり易いと思います。
C: コロは径の小さい方がレンズ側になるので気をつけてください。
D: 各リンクの繋がる箇所
赤丸の直進キーはレンズ後群ユニットに入ります。
黄丸の内側の溝部分にはフォーカスユニットの爪が入ります。
④レンズ後群ユニットの取り付け状態と分解
A: レンズ後群ユニットはこんな感じで入っています。
ユニットの位置は絞りピン周辺が切り欠きになっているのを目印にして下さい。
B: 入れる時はレンズ後群ユニットのW突起の間に鏡筒の凸を入れる感じになります。
C: フレアカッターを取り外しますが、取付位置が決まっているのでマーキングをしてから外すと安心です。
因みにバネにも噛まない為の向きがありますので気をつけてください^^;
外す時は爪を外側に押してあげる感じで1つずつ外していきます。
D: レンズ後群に入っている後群レンズ3枚は高周波溶着で溶かして固定してある為に外す事ができません。
やる気があれば根性で溶着部分をカッターで削ってレンズを取り出す方法もあります^^;
因みにこの後群ユニットはメーカーマウントごとに設計が違う為、ニコイチは同じマウントでしかできないので注意が必要です。
⑤レンズ後群の清掃と組み立て
A: 後群ユニットを分割しますが、スペーサーが入っている事がありますので、スペーサーの位置と枚数が分かる様にゆっくり慎重に分離します。(特に77D)
そして絞り羽根と各レンズを清掃します。
このレンズは中玉のみ表裏を清掃する事が可能で、たまに中玉が曇っているので助かります^^;
あとここはプラスチックで変形し易く、簡単に光軸が狂いますので、ネジは締め過ぎない様にして下さい。
B: 鏡筒とフォーカスユニットも簡単に分離できますが、ここは問題が無い限り分解する必要はないと思います。
C: 組み合わせる時はこの番号順に行うと良いと思います。
③のAFシャフトはフォーカスリングを微動しながら入れると簡単に入ります。
最後の④は組む前にあるフォーカス側の凸を程度位置決めをしておき、こちらもフォーカスリングを微動しながら入れると良いです。
そしてネジ&コロ各3個を取り付けて固定します。
逆の手順で組みたて、各種動作をチェックして完成です^^
⑥「277D」(キャノンEFマウント)の分解・清掃の場合
A: 「177D」と同じで、ズームリングゴムを外し、見えたネジ&コロ3個を外します。
前群ユニットの外し方も「177D」と同じです。
B: キャノンEFマウントの場合は電磁絞りの配線がありますので、後群ユニットはマウント側に残して鏡筒を分割します。
C: 分割する時に黄丸の入るスライダーの位置を確認しておいてください。
D: フレキシブルケーブルを断線させない様に注意しながらカプラーから配線を外します。
⑦後群ユニットの分解清掃と組む時の注意点
A: 絞り駆動モーター基部を外す時は絞り動作確認スイッチを矢印の溝から外し、スプリングの部分をプラ軸から外しながらモーター基部を取り外します。
B: 後群ユニットを分割したら絞り羽根と各レンズを清掃して組み立てます。
ここはプラスチックで変形し易く、簡単に光軸が狂いますので、ネジは締め過ぎない様にして下さい。
C: 後群ユニットのW突起を鏡筒のスライダーの溝にしっかり組み合わせます。
D: AF駆動シャフトはフォーカスリングを微動しながら入れるといいです。
組みあがったらネジ&コロ3個で固定し、各動作チェックをしてズームリングゴムを取り付ければ完成です。
⑧「77D」(ニコンFマウント)の分解・清掃の場合
A: これも「177D」と同じで、ズームリングゴムを外し、見えたネジ&コロ3個を外します。
前群ユニットの外し方も「177D」と同じです。
B: ニコンFマウントの場合も分割するとフレキシブルケーブルがありますので、断線しない様に取り扱う必要があります。
C: ニコンFマウントは後群ユニットに配線が無いので単独で取り外す事ができます。
D: 組む時の順番はこんな感じで、①の直進キーを後群を入れ、②の絞り連動棒に後群ユニットの絞り連動ピンを入れます。
そして③のAF駆動シャフトをフォーカスリングを微動しながら入れ、④をフォーカスユニットのスライド部分にこちらもフォーカスリングを微動させながら入れます。
⑨後群ユニットの分解時の注意点など
A: もしフレキシブルケーブルが邪魔な時は黄丸部分のネジを外せば取れるのですが、おそらくこのネジはマウントを分解しないとダメかもしれません。
今回はレンズ清掃がメインでしたので、ケーブルは外さずにやりました^^;
B: フレアカッターは取付位置が決まっていますので、マーキングしておくと良いです。
C: おそらく「77D」だけだとは思うのですが、光軸を調整する為のとても小さいワッシャーが入っていました。
分解時にここを割る時はかなり慎重になる必要があり、場所と枚数だけは間違えない様にして下さい。
多分177Dからは生産効率の為に金型の方で調整したのだと思います。
あとここはプラスチックで変形し易く、簡単に光軸が狂いますので、ネジは締め過ぎない様にして下さい。
絞り羽根と各レンズを清掃したら組み立てます。
D: もう一つ「77D」だけの注意点はフォーカスリングゴムに位置決めの突起がある事です。
フード取付マークのある場所なのですぐ分かると思います。
⑩「TAMRON AF 28-80mm F/3.5-5.6 Aspherical (77D)」の絞り値によるピント移動
ズームは80mm、真ん中のバーコードにピントを合わせています。
絞っていくとバーコードから手前にピント位置が移動しているのが分かりました。
このレンズの場合、ピント固定で絞りを変えながら撮影する場合は注意が必要だと思います^^;
マニュアル撮影の場合は面倒でも絞る度にピント合わせをし直す必要があるかもしれません。
AF前提のレンズだから問題にはなりませんが…
あと直進ズームではズーム位置によるピントズレはほとんどありませんが、こうした廉価版の回転式ズームはAF前提なのでめっちゃズレますね^^;
⑪「TAMRON AF 28-80mm F/3.5-5.6 Aspherical (77D)」の作例
使用カメラは「ニコンD700」です。
28mm f3.5 1/250 iso400
⑫80mm
80mm f5.6 1/100 iso640
⑬渋滞中
80mm f8.0 1/2000 iso400
⑭高台のマンション群
40mm f9.0 1/100 iso800
⑮沿線沿いの自動販売機
28mm f5.6 1/100 iso2500
⑯中古車屋さん
80mm f5.6 1/100 iso1250
望遠端ですが、割とコマ収差が少ないです。
⑰整備中のノスタルジックカー
72mm f5.6 1/100 iso4000
⑱物撮り(レンジファインダーカメラ) F5.6
80mm f5.6 1/640 iso400
⑲物撮り(レンジファインダーカメラ) F10
80mm f10.0 1/200 iso400
ピント固定で絞っても後ろのボケが変化していないのが分かりますね^^;
このレンズは絞ると前ピンになるからです。(画像⑩参照)
⑳物撮り(プライズフィギュア)
80mm f11.0 1/125 iso400 (F5.6でピントを合わせ、そのまま絞った失敗例…)
フルサイズ機で使っても隅の画質劣化や諸収差がこのクラスでは割と少なく、ボケ具合や画質はとても良い感じでした。
但しマニュアルフォーカスで使う場合は絞ると手前にピント移動しますので、絞る度にピント合わせをした方が安心感があると思います。
◎レンズの分解・清掃はリスクが伴いますので、できればプロに任せる事をお勧め致します。
あくまでこの分解・清掃は個人的な趣味の為、間違っている事も多いと思いますので、レンズの仕組みを勉強する程度にして下さると嬉しいです。
もしレンズを分解・清掃する場合は必ず自己責任でお願い致します(汗)
コメントはできればこちらの「ヨッシーハイムannex」ヘお願いします。
以上、【タムロン「TAMRON AF 28-80mm F/3.5-5.6 AL」分解・清掃】でした!
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